金曜日, 12月 02, 2005

ブラックバー道5 三十郎の余裕

 ここのところ、我が家では黒澤明が流行っている。正確に言えば、『七人の侍』や『用心棒』に出てくる「素浪人」とか「野武士」とかいう言葉だけを、意味無く連発するのが流行っているのである。こんな言葉は普通の生活で絶対に使わないが、だからこそ面白い。「素浪人」といえば、『用心棒』や『椿三十郎』の三船敏郎扮する三十郎が印象深い。めちゃくちゃ強いにもかかわらず、普段は人を食ったような物言いばかり。三十郎はまさに「能ある鷹は爪を隠す」の体現だろう。

 ところでわたしは最近、大変な事に気がついた。わが夫Dr.運送屋から放たれていた「闘争心」という名のオーラが、めっきり感じられなくなったのである。「闘争心」についてはベンリィ家庭裁判所の判例にも書いたので、記憶されている諸兄もいらっしゃるだろう。

 夫から「闘争心」が無くなったのは、実は大型二輪免許取得と大いに関係しているのだ。

  CBR1100XXは、でかい。すげーでかい。わたしのCL50なんか、おもちゃに見えるくらいでかい。だから、渋滞をすり抜けて前へ進むなんて事は めったに出来ない。以前の夫は、時間に余裕がある時でさえ、まるで生き急ぐかの如く、すり抜けすり抜け、常に前を目指していた。ところが、最近はめったに すり抜けなくなったのだ。この件について夫は最近、「大型乗っていると、せこせこすり抜けするのがバカらしくなった」と、その胸の内を明かしたのだった。

  夫の心境の変化は、異なる状況下でも散見される。例えば、信号待ちで横に並んだスクーターの兄ちゃんが、半ヘルでくわえたばこ、不必要な空ぶかしを連発 する等の不快な行為をしたあげく、信号が青に変わる1秒前から猛烈な勢いでスタートダッシュして行ったとしよう。この場合、スクーターの兄ちゃんの行為 は、Dr.運送屋が生来的に持ち合わせる暴力的なまでの正義感を必要以上に刺激することとなる。ところが最近、このような事例を目の前にしても、夫はまる で相手にしなくなった。

 一言でいえば、大型二輪に乗っている、余裕なのだろう。
 爆音とともに飛び出していったスクーターの兄ちゃんなんか、CBR1100XXならば、アクセルを数ミリ開けたらすぐに追いついてしまうのだ。

 わたしはいつもバイクの後に乗せていただいているから、夫の表情を垣間見ることはできない。もしからしたら夫は、生き急ぐようにダッシュしていったスクーターに追いついたその瞬間、「もうすぐ四十郎だがな」と、含み笑いを浮かべているのかもしれない。

 

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